2022/09/28~10/1 北アルプス 剱岳北方稜線レポート

剱岳の北方稜線を梅田センパイ(大学ワンゲル部の2年先輩)と踏破してきました。

◆1日目 9/29(木)

・この日はソロで入山。
・黒四ダムから内蔵助平、ハシゴ谷乗越経由で、数日前に真砂沢ロッジの坂本心平さんが架けてくださった剱沢の木橋を渡り、仙人新道から池ノ平小屋へ。

黒部川沿いの登山道を下ります
黒部川沿いの登山道を下ります

・ハシゴ谷乗越の登山道はマイナーで、途中会った登山者は3人だけ。ここを歩いたのは20数年ぶりだったけど、「涸れ沢の歩きってあんなに長かった?」「ハシゴ谷乗越から剱沢までってあんなにハシゴが続くのか!」と驚きの連続だった。昔の記憶ってアテにならんなあ。
ハシゴ谷乗越~剱沢の間から八ツ峰を見上げる。正面の岩峰に入り込むルンゼが三ノ沢

剱沢に架かる木橋。ほんの数日前に真砂沢ロッジさんが架けて
くれたおかげでハシゴ谷乗越ルートが歩けるようになりました

・コースタイムよりちょっと早く歩けたが、ハシゴ谷乗越までの登りでだいぶ疲労した感じはあった。よく整備された登山道だとここまで疲れないけど、今日のように不整地が多くなると、故障中の右足首の負荷が途端に増えてしまう気がする。
・池ノ平小屋で梅田センパイと合流し、明日のルート確認など。夕食後は伊豆田夫妻やモリクミさん、今日小屋入りした森本さんと軽く歓談して22時半ごろ就寝。

◆2日目 9/30(金)
・今年一番の真っ青な青空、そして無風。
・八ツ峰がモルゲンロートに染まるのを小屋の前から眺め、小屋のみなさんに見送られて6時出発。はじめからハーネスを装着し、ロープもすぐ取り出せるようにセットしている。
・鉱山道を歩き、小窓雪渓(氷河)に降り立ってチェーンスパイクを装着。雪上を登る。雪渓というより氷体が表面に現われている感じだ。
鉱山道から見る小窓氷河。大きなクレバスが口を開けている


小窓氷河を登る。日が当たると雪が少し緩み、チェーンスパイクが気持ちよく決まる


・雪が切れると大岩のガレをひと登りで小窓のコルそばの草地へ。草付きの斜面に続く踏み跡を登っていくが、ルートをよく下調べしておかないと迷うだろうなというポイントが何カ所もある。急なルンゼをトラバースする箇所は雪渓が完全になくなっていて、前爪付きのクランポンもアックスも不要だった。

小窓のコルを過ぎ、少し登ると池ノ平山の全貌が見えてきた。
西側が切れ落ちていて、なかなかワイルドな山容だ

急なルンゼをトラバースする箇所。雪が残っていると前爪付きの
クランポンとアックスなしでの通過は難しいようだが、
今年は9月あたまに雪渓がなくなり、問題なく通過できた


・この付近から自身の体調不良を感じ始める。吐き気・頭痛および、呼吸が苦しくてペースがぜんぜん上げられない。胃薬と葛根湯を投入する。加えて、右足首の故障がまだ治ってなくて足首の動きを思い通りにコントロールすることができず、一歩一歩で筋疲労が蓄積していくことも影響大な気がする。クライミングはまだまったく不可だが、ガレ場などの不整地歩きもまだまだ厳しい状態であることを再確認した。
・日陰に入ると風も少しあり急激に冷えてくる。9月末の標高2600mの日陰はさすがに寒い。
・小窓の王の岩壁が目の前に立ちはだかる。小窓の王の手前の急なガリーには入り込まず、その手前の草付き混じりの岩の斜面を直上すると、間もなく小窓の王の付け根にあたる通称「発射台」に到着。ここでチンネや池ノ谷ガリーの威容が一気に開け、スケールのデカさに圧倒される。ここから池ノ谷乗越まで歩いていけることはわかってはいるけど、「いったいどこ通るんだよ?」と不安な気持ちを掻き立てられる。
発射台は、小窓雪渓サイドから池ノ谷サイドへ主稜線をまたぐポイント。
ここで一気にチンネや池ノ谷ガリーなど、一般登山道や山小屋からは
見ることのできない荒々しい光景が広がる


・小窓ノ王の西側の絶壁の下のへりに、人が通れる幅の絶妙な形状をした斜面があり、ジグサグに下っていく。下りきると三ノ窓。コルから三ノ窓雪渓側を確認、チンネ左稜線取り付きまでのルートも確認した。
小窓の王と、その西側の断崖絶壁。
この断崖絶壁に、奇跡的に人が
なんとか歩いて通過できる斜面がある

三ノ窓から東側の三ノ窓雪渓側を見る。右の岩峰
から落ちるスカイラインがチンネ左稜線だろうか?


・三ノ窓から、北方稜線の核心のひとつとされる池ノ谷ガリーの登り。幅広いガレガレの急斜面だが、下から見て左端の岩壁寄りが比較的登降しやすい。中間地点より少し上にある大岩は右側に回り込んで登る(左側はちょっと難しいクライミングになりそう)。ここ、登りで2人しかいないからまだいいけど、下りで大人数だと落石事故が起きそうでかなり怖い。
池ノ谷ガリーを登る。岩をまったく落とさないで
通過することは難しい。できるだけ左の岩壁寄りを採ると、
捕まれる岩があるし、上からの落石を避けやすい


・池ノ谷乗越に立つと長次郎谷の右股が見下ろせ、八ツ峰上部もすぐそこに見える。チンネ左稜線の終了点との位置関係はよくわからなかった。
・池ノ谷乗越から岩壁の登りとなり、正面のフェースを少し右上ぎみに登る(数メートル左寄りのルンゼは落石が集まる場所なので×)。ホールドは豊富で我々は登りだからいいけど、逆コースの場合は下りで高度感もすごいし、怖そうだ。
池ノ平の頭へフェースをクライミング。
逆コースだとここが下りになるが、
フリーだとかなり怖そうだ


・池ノ谷ノ頭に登り着くと剱岳本峰がドカンと見えた。すぐそこのように感じるけど実際にはかなり長いんだろう。
池ノ谷ノ頭から見る剱岳本峰。その手前に長次郎ノ頭


・池ノ谷ノ頭から、はじめは稜線通しにハイマツのへりを歩くが、池ノ谷の切れ落ちかたが凄まじい。その先あたりから長次郎谷側を巻き始める。出だしは明瞭なバンドにつながる踏み跡と、小尾根に張り出した岩に赤いスリングがぶら下がっているのが見えるのでそこを問題なく通過したが、その先でいよいよ、どの踏み跡が正解なのかがわからなくなる。斜度自体はそれほどでもないが、それでも一度スリップすれば何百メートルも滑落しそうでまったく気が抜けない。
この付近から長次郎ノ頭へ向け、長次郎谷側斜面のトラバースが始まる


・長次郎ノ頭と本峰が見えてきてからも正解がはっきりせず、いろいろ迷って行きつ戻りつした。
・けっきょく、長次郎ノ頭に立ち、ピークからダイレクトに稜線沿いを下るルートをチョイスした。しかしそこも決して簡単な下降ではなく、途中にあった立派な支点を利用して懸垂下降した。25mロープを2本連結し、垂直近い15mほどの懸垂だった。ここを通常はフリーで下りるということだろうか?(なかなか厳しいぞ)
・下りきってから長次郎ノ頭を振り返って見上げても、正解ルートはいまいちはっきりしなかった。機会があれば空身でウロウロして各ルートを確認してみたい。
・剱岳本峰への登りは、はじめはほぼ稜線どおしで、途中から踏み跡に導かれるように左側へ回り込む。難しい箇所はなく山頂へ到着。
長次郎ノ頭から剱岳本峰を見る。ルートはどこだろう? 逆光でよくわからない


・体調は、ここまでとにかく体が思い通りに動かない状態がずっと続き、梅田センパイの足を引っ張った。私のペースが普段どおりなら、剱本峰まで2時間は早く着けたと思う。
・山頂からは一般登山道を下り剱沢キャンプ場へ。17時20分ごろ着。日が陰ると急激に寒くなり、お湯を沸かして食べるものを食べたらそのまま寝てしまった。

◆3日目 10/1(土)
・当初の計画では、立山を縦走して一ノ越からタンボ平、黒部ダムと歩くつもりだったけど、疲れちゃってるので日和ってしまい、室堂に下山して、乗り物で扇沢へ。

★まとめ
・剱岳の、表側(別山や剱沢キャンプ場あたりから見る形)と裏側(池ノ平小屋や仙人池あたりから見る形)、その両方からの眺望は見慣れている。しかし、その両側をつなぐ真ん中のあたりがどんな地形をしているのか、実際に行ってみないとわからない。つまり、北方稜線を歩いて表と裏をつながなければ、剱岳を知っているとは言えない。今回踏破したことで、自分の中の剱岳の全体像が少し見えた気がする。今後は剱岳という複雑な巨峰の枝葉となる八ツ峰や源次郎尾根、長次郎谷なども踏破して、剱岳の全体像をつかみたい。三ノ窓雪渓も登りたいし、池ノ谷も白萩川も踏破したい。
・体調不良により、大学ワンゲルの新人時代のボッカ錬成合宿(37年前?)並みの苦しい登山となったww。体調良好であれば3時間は早く下山できたと思う。咳が1日目から出ていたのでたんなる風邪ぎみだったのか、久しぶりの標高2600m超えで高山病的な症状が出たのか(過去にこの標高で高山病になったことはないけど)、または1日目の筋疲労が2日目に顕著に現われただけなのか? いずれにしても今回くらいの強度の登山は今後も継続したいので、なんでも歳のせいにしないで鍛錬を続けていきたい。
・梅田センパイ、誘っていただきありがとうございました。
・池ノ平小屋の伊豆田夫妻には今回もお世話になりました。池ノ平小屋が今の形で存在しているおかげで、剱岳を身近に感じることができています。私がやりたい登山や山小屋生活ができる、まさに拠点です。来年も遊びやお手伝いに行きますね~!

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